推薦コメント

 

 当時シンクシンクにはデモテープが何本も届き試聴チェックにおわれていたのだが、私の耳はボーカルの澄んだ声質と不思議に高揚感のある楽曲に魅了されていた。ただ、この音楽はレコード屋さんの何処の棚に並ぶだろう?とか、 きっとインテリの変人達だろうと勝手に想像していた。 二人に出会ったのは江古田のちょっと懐かしげなライブハウス。何が始まるの かと息をのんで待っていたが,出て来た女性は気立てよく育ったお嬢さん。男は山男風だが神経質にも見えるしぐさで、打ち込み音源とアコースティックギ ターを忙しそうに扱っていた。この時もやはり変人だろうと確信した。

 千の小鳥は2002年7月に「少年有理」と云うミニアルバムを出し、その後も作品の制作を行いつつライブ活動を継続し鍛錬を積み重ねている。山兄に於いてはブラジリアンギターのみならず、エレキギター、ベース、ピアノと多才で、ポルトガルの言語で歌うボーカルもまた魅力のひとつだ。 こんな山兄がボサノバギター教室をオープンした。「のんびりボサノバギター教室」。なんとストレートなネーミングなのかと「少年有理」「工場」と比べてしまったが、時のなす技なのか丸くなったのか。のんびりと云うのは山兄の幅広い音楽知識と雑学を楽しむ時間なのかと思っている。

 彼のギターには特異な魅力がある。クラシカルで構成主義的なのに、パーカッシブで情熱的。枠にハマらない山兄独自の奏法がまた未来の天才を育てるかもしれないと期待して、推薦の言葉としたい。

 

シンクシンクインテグラル

寺田康彦

 

シンクシンクインテグラルのサイト http://www.thinksync.co.jp/

 

 

 

「鬼怒無月のギターノーベル賞」受賞記事(「現代ギター」2004年8月号)


「さて今月のギターノーベル賞はひさびさの日本人ですね。「千の小鳥」とい うユニットで活動する山兄さんです。受賞アルバムは「少年有理」[TSCA-013]です。

千の小鳥はギター、シンセ、打楽器、ヴォーカルを担当するマルチプレイヤーの山兄(以下敬称略)とヴォーカルを担当する尚子の2人からなるユニット。彼らと知り合ったのは去年、大泉学園のライブハウス”In-F”での”ERA”のライブで彼らに話しかけられてCDを渡されたのがきっかけだったのですが、最初このCDを聴いた時は衝撃的でした。

多少の誤解を承知で言葉で彼らの音楽を説明するならば、まあ何と言うかアールデコの音楽ですね。音の装飾美術。一聴すると合成樹脂的な聴きやすさを持っているのですが、聴き込んでいくうちにそれが実は工業素材と自然素材を、とてつもなくデリケートな職人技で組み合わせた緻密きわまりない手工芸の作品であることに気付くーそんな音楽です。分かりにくい説明ですね。音楽的に言うとブラジリアンミュージックとプログレとテクノの融合? これもざっくりしすぎてるな。

実は先日、大塚のウェルカムバックという店での千の小鳥のライヴをベースの早川岳晴とパーカッションの岡部洋一とともにサポートしたのですが、改めてその楽曲の完成度に感心。複雑なボイシングと変小節、トリッキーなリズムアレンジ。しかもそれがすべて意味のあるものとして音楽を織り成している。ヴォーカルの尚子はそれら怒濤のアレンジをものとせず、独特の世界観を持った詞をのせた美しくもやはり複雑なメロディーを淡々と歌っている。

僕らサポート勢も何度も「よくこれで歌えますね」という感想を口にすることしきりでした。ライヴは若干のミスもありましたが楽しく盛り上がり、大団円を迎えることができました。

それではギタリスト山兄を紹介しましょう。彼はガット・ギタープレイヤーで、基本はブラジリアン・スタイルのリズム・プレイヤーです。しかし伝統継承派ではなく、ブラジリアン・スタイルを発展させた独特のプレイスタイルを作り出しています。カポタストを多用する独特のボイシングとマシンのようなタイトなビート感、独自なリズムパターンが特徴と言えるでしょう。

山兄は1970年北海道静内郡の出身。10歳からエレクトーンを始め12歳の時に父の手ほどきでクラシック・ギターに手を染めてみたり、ブラスバンドでフルートをやったりバンドでベースを弾いてみたりと興味の赴くままにいろいろな音楽に触れていましたが、21歳の時にアート・リンゼイの影響でいきなりノイズギターをやりだしたそうです(変わってるな)。
当時はノンチューニングギターでひたすらノイズだったみたいですが、やはりアート・リンゼイのブラジル音楽テイスト物を聴くうちに次第にブラジリアン・スタイルにひかれ出して、徐々にギターをノーマルチューニングにしていったそうです。

現在のスタイルに行き着いたのは25歳の時に友人からガット・ギターを譲り受けたのがきっかけで、本格的に指弾きスタイルを学び出し、27歳の時にそれまでまったく音楽経験のなかった尚子と千の小鳥を結成し始動。現在に至ります。

最初彼の音楽を聴いた時に、音楽そのものの素晴らしさもさることながらそのギタープレイにいたく興味を抱いたので、いろいろと話を聞いたのですが、今のスタイルを作る上で影響を受けたのはジョアン・ジルベルトやトニーニョ・オルタといったブラジリアン・プレイヤーと「ディシプリン」のキングクリムゾン、さらに昔好きだったYMOのサウンドをギター1本で再現できないかと試みたことなどが現在のプレイに影響を与えているのでは、と語っておりました。もしあなたがガット・ギターの新しい可能性を探っているなら彼のプレイは確実にあなたの琴線に触れるはずです」

(転載を快諾してくださった、鬼怒さん、現代ギター社のご厚意に感謝いたします)

 

 ギタリスト鬼怒無月のサイト http://mabokido.web.fc2.com/